女帝エカテリーナ

これは知っている人は、よくしっている名作です。

アンリ=トロワイヤ先生原作、池田理代子先生作画という名作です。アンリ=トロワイヤを知らない方も、池田理代子先生の名前を聞けば分かると思います。もしも、池田理代子先生が分からなければ、「ベルサイユの薔薇」の原作者と言えば、さすがに分かるのではないでしょうか。

 

池田理代子先生の作品で、最も有名な作品は「ベルサイユの薔薇」と言えますが、それ以外にも、彼女の作品には名作が多く、私も子供の頃から楽しませてもらいました。いくつかあげさせてもらえば、ナポレオンを主人公にしてベルサイユの薔薇以降のフランスを描いた「エロイカ」、19世紀のロシアの寄宿舎の少年たちを描いた「オルフェイスの窓」、あと学園ものでは「お兄様へ…」なんかが有名どころではないでしょうか。私は、個人的には「エロイカ」とベルサイユの薔薇のスピンオフ「ベルサイユの薔薇外伝」と今回紹介する「女帝エカテリーナ」なんかが、特に性に合っていた気がします。

 

原作者のトロワイヤ先生も、日本ではそれ程、名前は知られていませんが、ジャン=ポール=サルトルの「嘔吐」と、フランスの「ゴング―ル賞」という文学賞を争って、受傷した方ですので、その時点で、相当、凄い方です。アルメニア系ロシア人だったのですが、ロシア革命が勃発し、両親とともにヨーロッパに移住、その後、フランスで作家になるという経緯がありまして、そうした生い立ちもあってか、作品にはロシアの近代史を題材とした物が多く、そちらの分野でも、かなり評価を受けている方のようです。

 

物語の主人公はロシア帝国の近代化を果たし、黄金期を築いたと言われる「エカテリーナ二世」です。初代皇帝ピョートル大帝が皇帝の名乗りを上げたのが1682年で、エカテリーナ二世が16歳で結婚の為にサンクト・ペテルブルク入りしたのか1744年なので、ロシア帝国建国から62年後の事です。ちなみに「エカテリーナ一世」は、ピョートル大帝の奥さんです。

 

建国62年といっても、それまでロシアの土地に誰も住んでいなかった分けではなく、その前進の「ロシア・ツァーリ国」建国が「イヴァン四世」がツァーリの称号を得た1547年ですし、その前の「イヴァン三世」は大モスクワ公国なんて名前の国の王様だったようでして、この頃、後にロシアと呼ばれる領域にあった細かい国々を併合して、その後のロシア領の礎を作ったようです。遡ってゆくと、結構、短いスタンスで国が変わっている土地のようですね。ころころと国は変わるものの、ロシアの地に人々は、結構、昔から住んでいるみたいです。がちなみに、エカテリーナは、ロシア入りしてからついた名前で、出生地と本名は、北ドイツ生まれのゾフィー・アウグスタ・フレデリーケさんです。

 

さて、そんな常に政情も安定しないわりに、国土はやけに広いロシア帝国ですが、英雄と呼ばれる「ピョートル大帝」の後継を、姪の「女帝エリザベート」が継ぎ、さらにその後継者が「ピョートル三世」となるわけなのですが、昔から初代は天才、二代目凡人、三代目は凡人以下なんて酷い言葉もありますが、こちらの「ピョートル三世」も、その例に漏れない、可哀そうなくらいのボンクラときているので、ロシア帝国も困ってしまいます。ちなみに、この「ピョートル三世」が「エカテリーナ二世」の旦那さんとなります。

 

 

さらに、この「ピョートル三世」は幼い頃から、当時のヨーロッパの中でも文化度の高かったドイツで育てられていた為、やたらとドイツ贔屓に育ってしまい、事あるごとに自国のロシア文化を馬鹿にする始末です。しまいには、ドイツを敬愛するあまり、プロイセンとの戦争中に勝てる戦争を辞めて和議を勝手に申し込んでしまったりとやりたい放題。ロシア国民も臣下も面白い筈がありません。それでも、ロシアの皇帝の後継者という事で「エカテリーナ二世」も夫を立てないわけにはゆきません。全くに、苦労の絶える事のない結婚生活です。。

 

一方、主役の「エカテリーナ二世」は、16歳の嫁入りの頃から、ロシアの玉座に君臨する事を夢見てやってきた女の子です。始まりから覚悟が違います。ロシアに入国してからは、結婚前からひたすらロシア語とロシア文化の猛勉強です。お陰で、民衆の間での「エカテリーナ二世」の人気はうなぎ上りとなり、その一方で、「できない君のピョートル三世」は、さらに意固地になってゆきます。結婚後は、「ピョートル三世」の男性機能コンプレックスも手伝って、さらに、二人の関係は冷え切ってゆきます。(近年、こうしたピョートル三世のマイナス面は史実とは違ったんじゃないかという説もあるらしいですね)

 

しかし、「英雄色を好む」の例えもあるように、旦那と不仲になったからといって「エカテリーナ二世」も、そのまま貞淑で禁欲的な妻を続ける女性ではありません。彼女には「女帝」という名前の他にもう一つの異名があります。それは「玉座に座った娼婦」というなんとも艶っぽいのか、勇ましいのかよく分からない、魅力的な名前です。また、その名に恥じない恋多き女性だったようです。分かっているだけでも、公認の恋人は10人。その内の一人、ポチョムキンなんかとは、秘密結婚なるものまでしていたようです。

 

この「女帝エカテリーナ」のいい所は、政治的背景だけではなく、そうした恋の鞘当て的な場面や、16歳でロシアに嫁入りした「エカテリーナ二世」の少女らしい気負いや、大人になる手前の不安、結婚への失望、初めての恋で大人になってゆく様子、または、統治者としての孤独と、恋人の存在でそれらが癒されたり、むしろ強く感じたりなどといった様子などが丹念に描かれている事ではないでしょうか。むしろ、そちらの方が、私は主なのではないかとも思っております。

 

やがて、「エカテリーナ二世」はクーデターを起こし、夫の「ピョートル三世」を幽閉し、女帝へと昇りつめます。その後、「ピョートル三世」は不審死を遂げます。ちなみに、公的に発表された彼の死因は「痔」でした。(どうやったら痔で死ぬのか? それとも、薬のない時代は感染症で死ぬ事もあったのか? 疑問は感じざるを得ません)

 

 

「ピョートル三世」の死後、女帝となった「エカテリーナ二世」は、名実ともにロシアの実験を握り、自分の地位を盤石な物とするため権謀術数の日々を送りながらも、人生の黄金期と呼べる毎日を過ごします。

 

しかし、時代の変化は突然、「エカテリーナ二世」を襲いました。フランス革命の勃発です。民衆が発起しバスティーユ監獄が襲われた事に「エカテリーナ二世」はひどく動揺します。封建主義の絶対専制君主時代から、時代は民衆の代表が議会によって政治を行う共和主義思想へと動き出していたのです。

 

必死に啓蒙思想、自由主義思想を取り締まろうとする「エカテリーナ二世」ですが、かつては、フランス語を読み解き、啓蒙思想を深く学び、ロシアを近代化させようと、仲間達と必死に走り回った「エカテリーナ二世」の姿は、そこにはありませんでした。彼女のそんな姿を見て、若いころから苦楽を共にした仲間も去ってゆきます。

 

それでも、彼女は王政を守ろうとします。彼女が必死になればなる程、「老いの残酷さ」と「時代の非情さ」を見せつけているようで、見る者には辛さを感じさせます。しかし、やはり、あえてこの場面をちゃんと描かなければ、「女帝エカテリーナ」は完成しないのだと思います。一人の女性が、時代の変換期に必死に自分そのもので在ろうとした。統治者である事も女性である事も諦めず、生まれて、恋をして、笑って、泣いて、老いて、そして、死んだ。人類が生まれてから延々と繰り返されているごく自然の事であって、また、だからこそ深淵で偉大なテーマ足りえる。それが「女帝エカテリーナ」という物語の根底にあるものなのではないでしょうか。

 

最後に言い残した事が二つあります。池田理代子先生の絵の細かさが凄い。宮殿やらドレスやらのゴシック系の造形は勿論、本棚の中の本の一冊一冊までペン書きという細かさです。この点だけ見ても必見です。

あとは……、私、ピョートル三世大好きです。ああゆう出来ないキャラ、ちょっと萌えます。ちなみに、言っときますけど、最近、見直され始めている史実のピョートル三世ではなく「女帝エカテリーナ」に方の出来ない子ちゃんの方のピョートル三世ですからね。ピョートル三世と、エカテリーナの恋人たちのイケメン度合いが、おそろしくかけ離れていて残酷極まりありません。でも、結構、好きですピョートル三世!そんなダメンズ好きにも面白い作品なのではないでしょうか。


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