町田君の世界
こちらの作品、見本の画像を見て頂けると分かると思うのですが、主人公はメガネ君です。
見るからに頭が良さそうです。しかし、哀しい事ですが、彼は勉強が苦手です。メガネをしているのに勉強ができないという、漫画界始まって以来こんな皮肉な十字架を背負わされたのは野比のび太か、この作品の主人公、町田君くらいのものでしょう。
実際、落ち着き払った態度を見ていると、漫画なので、下手をしたら博士号を持っていたり、〇ックスフォード大学とか卒業しているなんて凄い設定でもありそうな雰囲気は醸し出していますが、町田君には、一切、そういう現実離れした学力はありません。
さらに、勉強だけではなく、運動能力も、単純な体力も秀でた所はありません。彼の能力は、全てが人並みです。いや、むしろ、人並みより、ちょい劣ります。
そんなテストの点数や、体力測定ではちょい劣る町田君ですが、彼の事を嫌う人はいません。彼と接すると何故か人は、少し幸せな気分になり、そして、いつもより、少しだけ自分の事が好きになれるからです。
しかし、それは町田君が苦手な事が多すぎて、見ている人が優越感に浸れるとかそういう意味では、けっしてありません。
町田君は、勉強で良い点を取るよりも、スポーツで優秀な成績を収める事以上に、人間が好きなのです。他人が喜んでいる事がとても喜ばしく、他人が辛そうにしているのが、とてつもなく辛いのです。また、彼は人に親切にしようと思って、親切に接している分けではなく、「そうなのだから」「そうしている」ただそれだけの理由しかありません。そして、その事が尚更に、町田君のまわりに人を集めるのです。
でも、こんないい人なので、結構、勘違いしてしまう女の子はいます。わりとそんな風に、辺りかまわず親切にして、女の子はその気になっても、町田君自体は全く気付かないので、女の子は、余計振り回されます。「他人の気持ちには繊細でも、自分に対する好意にだけは鈍感」という古典ラブコメには無くてはならない人材です。
町田君本人は、「自分の事を好きになる異性はいない」という大前提の中で、全ての思考を進めているので、女の子が、かなり分かりやすい意思表示をしたとしても、毛ほどにも気づきません。それどころか「自分に得意な事なんてあるのか?」と悩んでいます。
正直、ちょっと腹が立ってきます。
「すべての人が笑顔であって欲しい」
そんな事を本気で考えてしまえ、かつ、身近な人間が違和感なく受け入れてしまう…。
恋愛話を聞いても、「俺は恋ってしたことあるのかな?」などと言ってしまう…。
町田君とはそういう男の子なのです。
しかし、そんな町田君の気持ちに変化があらわれます。
「誰かに幸になって欲しい」「誰かに笑顔になって欲しい」と思うばかりだった町田君が、「○○が欲しい」「自分がよく思われたい」と思い始めます。
生まれて初めて感じる恋に対する動揺。
身体の中から、生まれてくる、他の誰かを挟まない自分と相手だけの気持ち。
少しずつ変わってゆく町田君。
でも、やっぱり、町田君は町田君だと読んでいる私達が安心してしまう。
この漫画を最後まで読み終え、気が付くと、なんだか、私も町田君が好きになっていました。これは、そういう物語なのだと思います。

