サイレーン

菜々緒さんの主演でドラマになったサイレーンですが、聞いた話によると、ドラマと漫画だと登場人物の設定が少し違っているようですね。ドラマだとどうしても、役者さんのスケジュールなんかもあって、回数が決まっているから、上手く終了させるためには、色々、漫画と同じようにはいかないんでしょうね。

 

原作者の山崎紗也夏先生の作品は、「マイナス」と「マザールーシー」「しましま」くらいしか読んだことがないのですが、心に闇をかかえた人を描くのがとても上手くて、特に魅力的な女性キャラクターを生み出す方だと記憶しています。

 

山崎紗也夏先生の書くキャラクターは、いつも、最後まで謎を残しているように思えます。その謎が、「生きるとは何か?」「悪とは何か?」のような根源的な問いを投げかけてくれているようで、今まで読んだ作品は、全て綺麗に締めくくられているのですが、余韻とでも言うのでしょうか、良い意味での「後味の悪さ」が残る作品が多いなというのも、私が今まで読んだ山崎紗也夏先生の作品に共通して感じられる印象です。

 

 

今回の「サイレーン」は、猪熊夕貴と橘カラという二人の女性が主人公です。

やはり、読んでいて面白いのは、この二人の性格が、とても対照的でして、対照的すぎて、二人が何処か引き合ってしまうという点です。そして、二人の関係が近づくにつれ、物語が核心へと近づいてゆき、物語そのもののスピード感が増してゆくようで、読んでいる人間をひきつけます。また、猪熊と橘カラが引き合うのに呼応して、猪熊のまわりの人間や、橘の身近な人間も、事件の中に巻き込まれてゆきます。こうした過程での、物語の広がりや、登場人物同士のすれ違いなども、読んでいて楽しい点です。

 

猪熊さんとカラちゃんの関係を簡単に書くと、刑事と殺人者です。この辺のネタバレは、ドラマでも描かれていますし、物語の最初の方で判明しますので、読み進めてゆくのに、全く、支障はないと思いますので、ご容赦下さい。

 

物語の始まりは、風俗店で死体が発見される事で始まります。

警察は、関係者に昨夜のアリバイを聞くものの、店の従業員達は、全員、アリバイがはっきりしており、死体の携帯電話には遺書のような内容の文章が残されていました。

 

死体にも不審な所は見つけられず、警察の見識は、上司の判断で、自殺目的の急性アルコール中毒という見方で落ちつきます。

 

だが、現場を捜査する刑事の中に違和感を持ったものがいました。猪熊のパートナー里美です。里美は、事情聴取を受ける女性従業員の中に、見覚えのある顔を見つけます。

 

里美と猪熊は、事件が起きた時間、同僚たちとカラオケボックスで飲み会を開いていました。強かに酔いカラオケ店の廊下で寝ていた里美はが、目を醒まし立ち上がると、一人の綺麗な女性が里美の横を通り過ぎてゆきました。

 

その女性が、里美の目の前で事情聴取を受けている女性だったのです。女性は、里見達と同じカラオケボックスにいたにも関わらず、事件現場で警察から事情聴取を受けた時、「仕事が終わったらすぐに帰った」と警察には答えていました。

 

しかし、里美と猪熊は、「彼女の仕事柄、客との関係で店に知られたくない事でもあったのだろう」と考え、捜査上、大した影響はないと判断し、彼女への事情聴取をやり直すことはしませんでした。これが、猪熊と橘カラとの、最初の出会いです。

 

その後、カラちゃんは、猪熊を意識しながら、殺人を繰り返してゆきます。ただ、面白いのは、もともと、このカラちゃんの人殺しの動機が、憎しみや物欲だとか、そういう物ではない所なんですよね。金とか、恋愛とか分かりやすい動機なら、話も簡単なんですが、カラちゃんが殺す人を選ぶ基準は、「優しさ」や「正義感」といった内面部分で自分に持っていない物を持っている人。「ああ、凄いな、私には無いな…」と感心した相手だとの事です。

 

本来だったら、そういう相手に出会った時は、「私もこんな人になりたい」とか「友達になりたい」とか思うものなのでしょうが、カラちゃんの場合は、そこがちょっと違っているのです。

 

「この人は私に無い物を持っている」

⇒「羨ましい」

⇒「私はない」「喪失感」

⇒「自分に無くて、相手にあるのならば、相手を殺せば手に入る」

⇒「殺そう」

という思考回路のようでして、物語の中でのカラちゃんは、相手を殺すと、自分が羨ましいと思った部分が手に入ると思っているようでして、羨ましさや尊敬の念を感じる相手というのが、そのままカラちゃんの標的となるわけですね。ここが面白い所でして、「自分より優れた人間を抹殺すれば、全体的に自分の順位があがって、自分の方が優れた人間になる」とか理屈っぽい事は考えないんですよ、カラちゃんは…。

 

彼女にとっては、殺人は捕食に近い位置づけで、目的はあくまで相手と一体になり、取り込む事なんですよね。もしかしたら、彼女にとっては、精神的な特徴や美徳なんてものも、アミノ酸やら炭水化物なんかと同じ栄養素くらいにしか感じられていないのかもしれません。そして、猪熊夕貴の場合は、彼女の強い正義感が、カラちゃんを引きつけ、猪熊は命を狙われるようになってゆきます。正直言って、迷惑な話です。

 

さらに、裏を返せば、そのように素敵だなと感じてきた人は殺したくなってしまうので、カラちゃんと長く付き合えている人間というのは、本当に橋にも棒にもかからないというか、カラちゃんから見て魅力の欠片もない人ばかりという事になってしまいます。

 

方法は間違っていても、彼女なりに素晴らしい人間になろうと努力しているのだとも言えるわけなのですが、それにも関わらず、長く生きれば生きる程、まわりには魅力のない人間ばかりが集まり、自分は孤立してゆき、殺人のスキルだけが向上してゆくという何とも遣る瀬無い話です。

 

でも、いいんです。

カラちゃんは魅力あるから!

…漫画だしね。

 

しかし、この漫画の面白いのは、そこが到達地点ではない所です。猪熊と関わり、言葉を交わす内に、カラちゃんの中で、信仰にも近い、「自己実現の方法としての殺人」という思い込みが揺らぎ始めます。

 

カラちゃんの心の動き、誰とも共有できない衝動を持ちながらも、それを自分の中で理解しようとする辛さ、時に、自分と真っ向から向かい合う事がどんなに難しいかという事、様々な問題を孕みながら、物語は終焉へと向かいます。

 

カラちゃん、猪熊がどんな答えを出すのか、そもそも答えなんてものが存在するのか…。ドラマを見た方も、見なかった方も、是非、一度、ご自身の目でお確かめください。

 

 

 

 

 

 

 

 

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Author:manga2525
漫画、映画、アニメ、ドラマ大好きです。
すっかりメディアにはまり、きっと、その筋の業界の方には、
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