遠野物語

漫画とは少し違うのですが、漫画レベルに面白い本があるので、紹介させていただきました。

私が学生の頃から好きで読んでいた本なのですが、有名な本なので、知っている方も多いかとは思います。


ちなみに、見本の写真は、パソコン版は左側は水木しげる先生の作画をされた「遠野物語」です。そして真ん中は原作、一番右端が口語訳。スマホだと、上、中、下で同じ並び方です。今回、ご紹介させていただくのはこちらではなく原作とされている「遠野物語」の方なんですが、水木しげる先生と柳田国男という組み合わせが、私には尊すぎて、マッチしすぎていたの載せてしまいました。原作の文体を楽しみたい方、ご購入されたい方は、一緒に載せておくので、見てみてください。

 

こちらの「遠野物語」は柳田國男が佐々木喜善の話を取りまとめ、編纂した物です。岩手の遠野地方に伝わる昔話を集められており、その一つ一つの話が短く、その土地の中で口伝で伝えられた物なのですが、岩手の気候も厳しい村落地帯の大変さが滲み出ているような話が多く、読むたびに見入ってしまいます。

 

特に、人間関係に関しては、当時、江戸時代の風潮や文化が、かなり色濃く、かなり保守的な風習も残っており、交通網の発達も行き届かない明治時代では、引っ越しもままならず、生まれた村から出た事がないなんて人も珍しくなかったのかもしれません。そういった環境で、人間関係のもつれが起きる事は、下手をしたら、現代社会に生きている私達以上に恐ろしい物だったのではないでしょうか。

 

そんな遠野物語の中から、いくつか私が気に入っているお話を紹介いたします。

 

昔、黄昏時に表に出ていると神隠しにあうなどという事がよく起こった頃、岩手県遠野松崎村寒戸という場所の民家でも、若い女性が忽然と姿を消した事がありました。梨の木の根元に、きちんと揃えて置かれた草履だけを残して、彼女は消えてしまいました。

 

…それから三十年、ある日、彼女の親類縁者が家に集まっている時、誰も知らない老女が一人訪れます。

 

よくよく調べてみると、確かに三十年前に行方不明になった娘はいたし、調べてみても、どうやら、本当に本人のようだ。家に集まっていた親類縁者は嬉しいやら、驚くやらで、「どうやって帰ってきたのかと口々に聞く」すると、女は「人々に逢いたかりしゆえ、帰りしなり、さらば、またゆかん」と言って、そのまま留まろうともせず、山の方へと消えていった。その婆様が来た日が、風の強い日だったので、それ以来、烈しい風がふく日には、遠野の人々は「こんな日は寒戸の婆がきそうな日だ」というようになったのだというような話です。

 

この話は、ストーリーが二種類あって、佐々木喜善バージョンと、柳田國男バージョンで、

ラストに若干の違いがあったように記憶しています。僕の記憶が正しければ、上記のストーリーは喜善のモノで、柳田の方は、それから毎年寒戸の婆は訪れるようになり、それ度に、村は大風に見舞われるようになり、村落にも被害が出るようになった。寒戸の婆に話しても、本人は村へ来るのをやめようとはしない。困った村民達は、寒戸の婆が村に入ろうとする、村と外との境目に置石をするようになった。それ以来、村に寒戸の婆が来る事はなくなり、村民は臍を撫で下ろした。

 

というような展開になっていたと思います。

 

よく、柳田國男が脚色したのだと言われるエピソードを耳にしますし、実際に手を加えていたのだと思います。

 

実際、柳田國男は若い頃、同人誌に参加して小説を書いたりなど文芸活動を行なっており、当時の文学者ともかなり密接な交流をしているという話も想像力を掻き立てさせられる要因ではあります。

 

柳田國男は、郷土史に名前がある名士や、武士のような支配階級の人間に対して、支配を受ける側の名も無い民を「常民」と呼んだと聞きます。何代もの間、血と汗を地面に染みこませ、最後は土の中へと姿を消してゆき、名前も残らない常民。また、彼は研究の対象として、好んで「常民」を選んだと聞きます。

 

ン十年ぶりで故郷に戻ってきても、嵐を巻き起こしてしまい、結局は疎ましがられ、村人全員に締め出されてしまう寒戸の婆の姿にも、それを追い出そうとする村民にも、何かしら悲哀的アイロニーというのか、柳田國男自身の持つ常民への眼差しのような物を感じてしまうのは、僕だけでしょうか。

 

 

もう一つ、気に入っているというか、若干、恐ろしさを感じる話を紹介します。

「遠野物語」の中には、その土地の中で、当時、残っていた風習なども記載されています。その中の一つに「若葉の魂」という話があります。

 

 

平たく言えば「若葉の魂」というのは、間引きの事です。

もしかしたら、若い方で間引きという言葉を聞いた事がないという方もいらっしゃるかもしれませんので、さらに、平たくして言えば「子殺し」です。

 

主に「子殺し」の対象となるのは、周囲から望まれていない男女関係で生まれた子供や、貧困から来る食糧難によって、奉公や女衒(女性専門の人買い)に渡せる年齢まで育てられないなと判断された子供なんかが間引かれます。

 

この「若葉の魂」という話は、もう少し立ち入って、始末の仕方と遺体の処理の仕方まで買書かれていました。間引き方法は、臼なんかで押し殺すそうです。(臼で、押し殺せるので、かなり小さい頃という事になりますね。その臼、その後も使ったんでしょうか…)それから、遺体を、ある程度の大きさに細断して桶の中に入れて、家内と外を分ける境目のところに埋めるそうです。つまり、人が通る度に、間引きされた赤ちゃんを跨いで、家と外を行き来するという形になります。そして、この状態になると、どうなるかというと、殺された子供は、家を守ってくれるそうです。

 

 

私が、この話を読んだ時の感想は正直言えば「?????」でした。

勝手に気持ち良い事をして、育てられないから殺して、今度は「お家を守って頂戴」、そう帰結する論理展開が、よく分からず、正直、若干の抵抗感や嫌悪感を受けた事を覚えていま

す。ただ、何年経っても、この話に対しての疑問が拭い去れず、事あるごとに思い出していた話です。

 

 

最近の私の捉え方は、この頃の村落地方は、現在の私達の社会で思う以上に、子供を育てられない状況が多かったという事なのだろうかと考えています。計画的に子供を作ろうといっても、当時の農家は家内制工業でした。労働力は子供を作るしかありません。それも、医療もままならない頃でしから、怪我や病死も多かった事でしょう。

 

余分に労働力を用意しなければ、人手が足りなくなって、仕事が立ち行かなくなってしまえば、家族全員が路頭に迷う事になってしまいます。

 

さらに、労働力が過剰になった時や余剰人員を養えなくなった時はどうするかと考えた時、現代ならば、リストラという方法もありますが、当時はほぼ100%家内制工業です。食べさせる事ができないから、他で働いてくれという理論は成り立ちません。ましてや、奉公にも出せない子供ならば、なおさらの事です。しかし、不作の年などに決断が遅れれば、それこそ、家族全員の命が危なくなる場合もあります。そうなると……。

 

 

現代の私達は、選択の誤りといっても、家族全滅に直結する程の事は、そうそうありません。一方、当時の貧農の選択となると、「生き地獄」か「死」かなんて言う、まった無しの選択の場面に晒される事も多かったのではないだしょうか。

 

 

また、望まれない男女関係での妊娠に関しても、当時の狭い集落の村落地帯では、集落に受け入れられない事も、そのまま一族の死に直結する可能性が高いことでしょう。

 

 

こんな理由で、間引きをした時、「はい、切り替えましょう」でスイッチできる人は、そうそういないと思います。子供がいなくなった後でも、日常の延長線上に子供の存在を置いておきたいと思ったとしても、無理からぬ事なのかもしれません。

 

 

以前、寺山修司監督の映画で、東北で仏間の床下から、祖父の遺骨を掘り出して語らうという場面を見ました。ニュース番組で、故勝新太郎氏が、兄の若山富三郎氏が亡くなった際に、お骨を食べた映像が映し出されたのを見た事があります。田舎の方にゆくと、今でも、自分の畑の中に一族の墓を作っているお家も目にします。

 

身近な誰かが亡くなり、その事を、どんな形で受け止めて生きてゆくかという事は、生前の故人との関係も相まって来ますので、本当に千差万別なのだと思います。

 

若い頃、「若葉の魂」の話を読んだ時は、勝手に殺して、勝手に埋めて、それで「私達の為になってください」なんて、ひどい身勝手な話のようにもおもえましたが、今の私は、「自由の制限された社会で、誰かの犠牲がなければ生きられなかい状況にあった人たちなりの、犠牲になった人たちへの葬送だったのではないだろうか…」そんな風に思っています。

 

…とまぁ、こんな感じで、事あるごとに思い出して考えちゃうような話が、結構、載っているんですよ。もしも、興味のある方は、読んでみてください。

 

 


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漫画、映画、アニメ、ドラマ大好きです。
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