不思議な少年

もしかしたら、作者の山下和美先生のお名前は「天才柳沢教授の生活」の方で、ご存じの方が多いかもしれません。ちなみに、この「天才柳沢教授の生活」は、フジテレビ系でドラマ化されました。主演は、松本幸四郎で、柳沢教授の娘役が国仲涼子だったような気がします。気になる方は、調べてみてください。

 

 

私は、山下和美先生の作品自体が結構好きです。最初に読んだのは、多分、歯医者で読んだモーニングに乗っていた「天才柳沢教授の生活」だったと思います。それで…、山下和美先生の作品をわりと追っかけるようになり、その内、特別連載か何かで、「不思議な少年」に出会ったような気がします。

 

「不思議な少年」は基本的には、一話完結のオムニパス形式になっており、何羽目から入っても話には、すぐに入って行ける有難い構成になっています。

 

ストーリーは、一人の「不思議な少年」時代や空間を動き回り、人々と関わり合うという話なのですが、この少年が割とネガティブな性格で、皮肉屋でそれでいて人情家だったりします。まぁ「本人が自分で思っている程、悪い奴じゃないんだけどね…」ってフォローしてあげたくなくなるような少年です。基本的に、この少年が死にません。っというか、時間とか寿命の観念が成立するのかさえもよく分からない少年です。また、少年かどうかも、その場面によって違っていて、時には大人だったり、また、時には女性だったりもします。長い時間を生きていて、不思議な力も使えるので、歴史のあちらこちらにお邪魔しています。だから、少年を目の当たりにした人の感じ方で、少年の印象は、大分変り、ある人は天使と言い、また、また、ある人は悪魔、なかには座敷童なんてよぶ人もいます。

 

どの物語にも共通しているのは、人間を嘲笑しているような少年の表情と、ともに悲劇を目の当たりにした時の、酷く悲しそうな表情です。多分、私は、この辺りの惹かれてしまったのではないかと思っています。

 

彼の表情の誤差の裏にある物は、限りある命の中で、欲望のままに生き、無駄な争いを続ける人間に対しての嘲りや同情、見下しという感情と同時に、精一杯に人を愛して、時には自分の身を破滅させてしまうような場面でも、我が身を投げうって誰かを救うような、言ってみれば非合理的な行動を取る事への疑問と強い憤りというような、相反する感情がないまぜになっているようにも覚える。

 

そして、何よりも、少年自身が、人間を愚かな生き物と吐き捨てながらも、その人間という種に絶望しきれない、人間を諦めきれないというのだという事が、この作品を読んでいると強く伝わってきます。少年は永遠とも言える長い時間をかけて、ただ、ひたすらに人間を見続け、問い続けてゆくのでしょう。時折、少年は気に入った人間を見つけると、命を助けようとしたり、永遠の命を与えようとしますが、そういう時に限って、人間は笑顔で少年の申し出を断ります。そして、少年は目の前の人間を助ける事のできない自分を責めるような表情をしたり、また、時には希望を見出したような晴れやかな表情を見せます。その時、思うのが、この漫画の登場人物の中で、最も、悩み続けているのは、主人公のしょうねんなのではないだろうか…、という事です。

 

オムニパスなので、いくつも好きな話はあるのですが、その中で、やたらと頭に残っているお話を紹介してみます。少しネタバレしちゃいますので、「少しのネタバレも嫌だ、私は本で読む」って方は、飛ばしてください。

 

 

―あらすじ開始―

「不思議な少年」(第十九話)NX-521236号 講談社モーニングKC第六巻

 

舞台は現代よりも、ちょっとだけ未来のお話です。

その頃の人類は、移住できる星を求め、太陽系外へと飛び出そうとしていました。その太陽系外惑星移住計画の要は、大量生産された子供型のアンドロイドでした。宇宙船に乗り、目的の惑星に辿り着いた子供型ロボットは千年間かけて、その星の大気や地形を改造して、人間が住める星へと変えてゆきます。ロボット達は、その間、誰からも注目される事もなく、ねぎらわれる事もなく働き続けます。ちなみに、量産型ロボットを子供型に設計したのは、人類が知らない間に移住可能な惑星を作るという作業を、主人が眠っている間に、仕事を終える小人の靴屋の童話に重ねて発想したという事だそうです。そして、この物語の主人公は、その中の一人の子供型のロボットです。

 

計画責任者のサンドラは、大量生産された子供型ロボットの指令系統として働くロボットNX-52136号に他のロボットが壊れても指令系統として最後まで残る「特別なロボット」としての役割を定め、その目印として毛糸の帽子を被せました。そして、その場面が物語の冒頭となっています。

 

広めのテラスで恋人と宇宙船打ち上げのニュース番組を見るサンドラ。自分の研究結果であるロボット達の事や、テラフォーミング計画の事を喜々として語るサンドラ。彼女の話を聞きながら、千年の孤独な労働に向かうロボット達を思い、「残酷」と言う言葉を口にするサンドラの恋人。二人は、夜空に向かって乾杯をします。

 

場面は転換します。宇宙船の中で安置されているロボット達と、それらを見てまわるNX-52136号。ふと宇宙船の窓から虚空を覗くと宇宙空間に生身の人間を見つけます。「不思議な少年」でした。

 

宇宙船の操縦席に座り、ロボット達を惑星におろすよう指示するNX-52136。操縦席の傍らにはサンドラの写真が置かれていました。

 

着陸した惑星では、不思議な少年が待っていた。NX-52136号と少年は、次の惑星まで一緒に航海する事になります。

 

NX-52136号の仕事は、司令塔です。だから、最も大事な仕事は、他のロボット達の仕事を見届ける事です。「氷山があるので自爆します」「硬い岩盤があるので自爆します」仲間のロボット達から毎日のように届く、最期の業務報告。NX-52136号を何十万体もの仲間の最期を聞きながら、淡々と業務を続けます。

 

しかし、淡々と作業をこなすNX-52136号でも動揺する時あがります。少年がサンドラから貰った毛糸の帽子がほつれている事を指摘すると、慌てて、修理をするために編み物用のかぎ棒を作り始めます。それは、毛糸の帽子は、サンドラが他のロボット達と自分を見分ける大切な物だからだそうです。

 

1000年の時はすぎ、NX-52136号以外のロボットが全ていなくなりました。以前までは、何かあると頻繁に送られてきた仲間からのNX-52136への通信もなくなりました。連絡をくれる仲間達は、今となっては、誰もいません。しかし、その甲斐あって、かつては、不毛の地であった惑星には風がふき、川が流れ、空には鳥が舞っています。ある日、NX-52136号は、久々に通信を受け取ります。「仲間は全て壊れたはずなのに?」傍受してみると、驚いた事に、聞こえてきたのは、懐かしいサンドラの声でした。

 

ロボット達が、地球を旅立った時、1000年後のNX-52136に通信が届くよう、サンドラが発信していたのです。懐かしいサンドラの声、必死に呼びかけるNX-52136号。通信の中で、サンドラは自分がすでに寿命が尽きている事を伝え、NX-52136号にねぎらいの言葉と別れを告げます。そして、サンドラが、もう存在していない事を聞いたNX-52136号の体の中から、今まで味わった事のないデーターが報告されます。

NX-52136号は、

「おかしいよ。僕が壊れたわけでもないのに、何だか自分が壊れてみたいだよ…」

その言葉を聞いた少年が答えます。

「それが感情だよ」

感情と言う物を知ったNX-52136号は、少年にある頼み事をします。

―あらすじ終了―

 

 

…と、まぁ、こんな感じでラストへと続いてゆきます。ラストに興味のある方は、ご自身で確かめた方がよいでしょう。

 

正直、久々に読んで、記事を書いているだけでも、若干、切なくなってきます。本当に、私、この物語には弱いです。この物語だけではなく、この本読んだ後は、私換算ですが、いつもより2割増しで、妻に声をかける時のトーンが優しくなります。そして、なんだか、理由もなく家族や身近な人を抱きしめたくなります。こんな感じの内容の話が、結構、沢山載っているんですよ。好きになっちゃいますよ。少なくとも私は。

 

余談ですが、同名の小説で、あのトム=ソーヤの冒険で有名なマーク=トゥエインが書いた物がありますが、筋立ても似ているので、おそらく、こちらの作品を参考にしたのかもしれませんね。(勿論、全く別物の作品ですけどね)

 

ちなみに、マーク=トゥエインの方は、「不思議な少年」の設定はサタンの甥で、そのままサタンという名前の時もあれば、44号と呼ばれている時もあるようです。山下和美先生の方の「不思議な少年」も、キリスト教ベースのお話が多い気がするのは、やはり、マーク=トゥエインの世界観みたいな物を意識しているのかもしれませんね。

 


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漫画、映画、アニメ、ドラマ大好きです。
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